今年もそろそろ各クラブの1歳馬の募集が始まる頃合いで、新種牡馬に対する関心も高まっている。この記事では、主要な社台・ノーザン系クラブで募集がかかりそうなモーリス・ドゥラメンテ・ミッキーアイルを中心に分析を行なっていく。
モーリス
日本だけでなく、香港でも大活躍した世界的な名馬。まずモーリス自身の特徴について整理しておくと、香港の馬場にも対応できたことからパワー色は強い。
このあたりはロベルトっぽい特徴と言えるかもしれない。しかしモーリスの武器はパワーだけではない。マイルに対応できるだけのスピードと、それを持続させる能力に長けている。持続力の部分はスクリーンヒーローの母方にあるノーザンテーストの特徴と言える。
一方で苦手なのは瞬発力勝負。顕著なのはロゴタイプに敗れた安田記念やネオリアリズムに敗れた札幌記念で、スローの逃げからの瞬発力勝負だと分が悪い。産駒もその特徴を受け継ぐとすれば、【逃げ馬不在】【外回りコース】といった条件下は少しパフォーマンス下げるかもしれない。
種牡馬としてのモーリスを考えた場合にポイントとなるのはロベルト系であるという点。ロベルト系の特徴をあげると「牡馬優勢」「一子相伝」という傾向。
たとえば、モーリスの父・スクリーンヒーローの仔も獲得賞金順に産駒を並べると17位まで牝馬が出てこない(2019年4月現在)。同じロベルト系のシンボリクリスエスだと25位まで牝馬がいない。このように牡馬優勢なので、一口馬主やPOGでは基本的には牡馬を優先的に検討するというのが現時点の筆者の考え方。
ちなみに種牡馬としては1年先輩のエピファネイアも同じロベルト系なので同じ特徴が出ると予測しているが、エピファネイアはかなり母系の影響が強く、この牡馬優勢の傾向は薄いかもしれないが、モーリスの産駒はこの傾向がかなり強くなると筆者は見ている。
そして「一子相伝」という傾向だが、ロベルトの系統はコンスタントに高いレベルの馬を輩出するというよりは1頭だけ大物を残すタイプの系統である。実際、モーリス自身の父系もSilver Hawk→グラスワンダー→スクリーンヒーローと細い糸を手繰るようにつながっている。グラスワンダーの血はアーネストリーにも受け継がれたものの途絶えようとしている。
スクリーンヒーローの血がモーリスでつながるのか、それともゴールドアクターでつながっていくのかはわからないが、こうした血の宿命が続くのか、それとも枝葉が広がっていくのか。こうした観点でもこの系譜を見ていきたい。
配合的な話については、上記の一子相伝的な傾向から「これなら走る」と言える方程式は生まれてこない気はするのだが(個々の精神面などのファクターのほうが重要)、あえて言うならば筆者が注目するのはBold ReasonやOlympiaといった血。
このどちらもスクリーンヒーロー産駒に共通する好走のポイントなのだが、たとえば前者はモーリス自身がBold ReasonとNever Bendの半兄弟クロスをBold ReasonとニアリーなRobertoで増幅しているという仮説も立てられるので、モーリスの仔も母方に薄くBold Reasonが1つだけ薄く入るような配合だとモーリスの特徴が強く反映される可能性がある。
あとは母系にOlympiaが入る形。この形からはゴールドアクターやグアンチャーレなどを輩出しており、スピードの持続力が強化されると予測される。こちらは少しパワーが要求される馬場で先行して持ち味が出そうな配合。
以上、配合について仮説を述べてきたが、余談をひとつ。モーリスの産駒が父同様、スピードを活かしてこその産駒になるとすれば、乗り役が重要になる。なんでも末脚を溜めようとする騎手は合わないと予測される。そうなると例えば川田将雅騎手のようなタイプが乗ることが重要で、そういう積極的に前目をとる騎手への依頼が多い厩舎に配属される馬を狙うというのもひとつの戦略として考えてもよいかもしれない。
▼桜木の注目ポイント
○:牡馬優勢の傾向が強く出そう。牝馬は割引か?
○:スピードを活かす競馬が理想で厩舎や騎手もポイント
○:母方にBold ReasonやOlympiaが入る配合に注目
△:モーリス色が強い仔は瞬発力勝負が苦手かも
△:大物は1,2頭しか出ないかもしれない
ドゥラメンテ
ノーザンファームを代表するダイナカール牝系出身の種牡馬として牧場も手厚くバックアップしていくことが予測される。この牝系からはルーラーシップがすでに種牡馬となっているが、クラシックホースを輩出するなど好調なスタートを切っている。
まずキングマンボ系の特徴として「母系を引き出す」という色が強くなる可能性はある。たとえば、短距離で活躍したロードカナロアがジャパンC馬アーモンドアイを輩出。これは母フサイチパンドラの影響だと考えられる。
なので、ドゥラメンテ産駒を検討する場合、母馬の競走実績を確認することで仔の適性に当たりをつけることはできるかもしれない。
おそらくノーザンファームで生産される馬はクラシックを意識した配合が多くなるが、それ以外の牧場から生産される馬の中からはダート・短距離で活躍するような産駒が誕生してくる可能性はある。
ドゥラメンテの配合をみると、キングカメハメハ+SS+トニービン+ノーザンテーストという完成度の高い組み合わせになっており、ここに何を足すかを考えると、案外、難しい面がある。
考えられる有力どころの血としては、ロードカナロア産駒と同じく母方にNureyevやSadler’s WellsのようなSpecialの血を持ってきてSpecialのクロスで爆発力を引き出すような配合。
もしくはクロフネなどのDeputy Minister持ちを配合する形。この血はノーザンテーストと組み合わさると、スタミナ色が強くなる。実例としてはオークス2着のリリーノーブルや先日青葉賞を勝利したリオンリオンがこれに当たる。この2頭は芝の中長距離で活躍しているが、この配合はスタミナやパワーのほうに能力が振れるのでダートに適性が出ることもある。
▼桜木の注目ポイント
○:母親の適性によっていろいろなタイプが出てくる可能性あり
○:母系にNureyev(Sadler’s Wells)に入るSpecialクロス持ちから大物誕生か
○:クロフネ持ちとの配合は中長距離やダート路線で期待
ミッキーアイル
ミッキーアイルはマイルG1を2勝、配合としてはノーザンダンサーを重ねまくって、名マイラー・ロックオブジブラルタルの色を強く押し出したような配合になっている。特にその中でも配合のカギになっているのがデインヒル+Nureyevで、これがマイラー寄りのスピードを生み出している。この組み合わせはサトノアーサーやプリモシーンにも含まれている。
配合を考えた時、ミッキーアイル自身がかなりノーザンダンサーの血を濃く持っているので、母方は薄く1本だけノーザンダンサーを持っているような馬、もしくはまったくノーザンダンサーを持たないような配合でもよさそうだ。
母方にノーザンダンサーが1本だけ入る形の中で、どんな血を経由するのが望ましいのか考えた場合、筆者が参考にしたのがフルーキーの血統表。フルーキーはデインヒル+Nureyev+SSとミッキーアイルと似た組み合わせになっている。フルーキーの場合、この3つの血以外のところに入っているノーザンダンサーの血がNijinsky。
ノーザンダンサーの血が飽和している現代において、Nijinsky以外にノーザンダンサーをほとんど含まない繁殖牝馬がどれだけいるかわからないが、個人的には母方にNijinskyを持つ配合に注目してみたい。あとはLyphardあたりも良さそうな予感がする。
あとはノーザンダンサーをまったく持たないような牝馬との配合では、たとえばアメリカから輸入されたフォーティナイナー系やA.P.Indy系の牝馬からはスピード色豊かな芝ダ短距離向きの産駒が生まれると仮説が立てられる。
また輸入牝馬では南米・アルゼンチンなどの異系出身の牝馬との配合からも面白い馬が出てきそうな予感がする。
ディープインパクト産駒のマイラーの系譜は、これからリアルインパクトとミッキーアイルが立場を争っていくと予想されるが、ミッキーアイルのほうが配合に幅が感じられる。数年後、どちらの種牡馬が優勢になっているか検証してみたい。
▼桜木の注目ポイント
○:北米や南米の異系輸入牝馬との配合は面白そう
○:母方にNijinsky・Lyphardが薄く入るような配合に注目
△:ノーザンダンサーの血が濃い牝馬との配合は?
その他の種牡馬
今回の記事では上記の3頭について分析したが、社台スタリオン以外の繋養馬以外にもホッコータルマエやリオンディーズ、マクフィ、ディククリートキャットなどの面白い種牡馬の産駒がデビューを控えている。
ホッコータルマエは上記のキングマンボ系の特性を考えれば、生産者の想定通りにダート適性のある産駒を生産しやすいだろうし、マクフィ・ディスクリートキャットは共にSS系との相性もよさそうなので長期的にみて面白い存在。
中でもマクフィはRiverman持ちの種牡馬なので牝馬から面白い産駒が出てくる予感がある。キャロットクラブに在籍していたアールブリュットもマクフィ産駒の牝馬だった。日高出身のマクフィ産駒の活躍に期待したい。
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