今年もそろそろ各クラブの1歳馬の募集が始まる頃合いで、新種牡馬に対する関心も高まっている。この記事では、キタサンブラック・ドレフォン・イスラボニータ・シルバーステート・サトノアラジンなどの新種牡馬を分析・予測していく。
■キタサンブラック
現役当時は菊花賞や有馬記念など長距離路線で活躍した本馬。母父サクラバクシンオーながら長距離で活躍した突然変異的な要素もあり、予測が難しい種牡馬ではあるものの、いま手元にある材料で予測をしてみたい。
まず改めて、キタサンブラックの血統表を眺めてみると、目が行くのはLyphardのクロスだろう。Lyphardのクロスを持つディープインパクト産駒が長距離タイプに出やすいことはこのサイトでも何度かお伝えしたが、それが長距離向きに出た要因と考えることもできる。
この仮説をもとに、推測を進めるなら「Lyphardのクロスを持っているディープ後継種牡馬がヒントになる」と考えられる。そこで注目したのがトーセンラー。
トーセンラー産駒の種牡馬成績を見ていると、サンプル数は多くないものの「母系が短距離向き」「ミスプロやSeattle Slewなどのアメリカの速い血」との組み合わせが良さそうというのが見えてくる(代表産駒アイラブテーラーの母タケショウレジーナは1200-1400mで5勝)
つまり、キタサンブラックに関しては、キタサンブラックの良さを継続するというよりは、スピードのある血を入れて、マイル~中距離ぐらいを目指すバランス型配合のほうが正解なのではないだろうか。
そして、これと似た発想でうまくいっているのがオルフェーヴル。オルフェーヴル産駒は母系に「ミスプロ+ナスキロ」が入る形でラッキーライラック、エポカドーロを輩出。先日、東京スプリントを勝ったジャスティンも同じ組み合わせである。
キタサンブラックとオルフェーヴルの活躍セクターが重なることを考えると、この発想はキタサンブラックにおいても応用できるのではないか、というのが筆者の見方である。
あとそれ以外では、ノーザンテーストの血を活かす発想で「クロフネ持ちの牝馬」との交配は賞金アベレージで面白そうな予感がする。ノーザンテースト≒Vice Regentのニアリークロスはパワー・持久力を増幅させる効果があり、それを狙った配合。「クロフネ持ちの牝馬」でも芝のマイル以下ぐらいで活躍したスピードタイプと組み合わせれば1200-1600mでスピードがある先行策を打って、後続の脚を封じるようなタイプが生まれてくる可能性はある。
▼桜木の注目ポイント
〇:母系にフォーティーナイナーなどのスピード系ミスプロがあると良い
〇:SeattleSlewやScretariatなどのナスキロの血もポイント
〇:クロフネの血を取り入れた配合からは短距離タイプも誕生か?
△:Lyphardのクロスを継続させるなど長距離志向の交配は疑問
■ドレフォン
ドレフォン自身はBCスプリントを含むダート短距離でG1・3勝の馬。まず、ここで推測しなければいけないのは「なぜ社台スタリオンはドレフォンを導入したのか?」という点について“妄想”することが重要である。
まずシンプルな発想でいけば「ディープインパクトとStorm Catの相性を評価した」という点である。事実、現1歳のノーザンファーム生産のドレフォン産駒40頭のうち、2割に当たる8頭が母父ディープインパクトである。この8頭という数字はBMSの比較でトップの数字となっている。少なくともディープとストームキャットの相性をまったく意識していないということはないだろう(そしてその意識があったからこそ、同じStorm Cat系のブリックアンドモルタルも導入したことにつながる)。
そして、もうひとつはノーザンファームの血を薄めるための役割も期待しているようだ。昨夏、社台スタリオンを訪問した時に三輪圭祐氏とこの点についてお話しさせて頂いたが「何と組み合わせてもオニオンスライスのように喧嘩しないですね」とのだった。
簡単に言えば、血統的にはノーザンファームのほとんどの繁殖と組み合わせることができる点がドレフォンの強みだということだろう。
ただ、これをどう評価するかは別問題となる。決してドレフォンを低評価しているという意味ではないが、こういう種牡馬の立ち位置で想起されるのがノヴェリストだ。ノヴェリストにしてもドレフォンにしても種牡馬としての活躍以上にBMSとしての緩衝材的な意味合いが強いと筆者は考えている。
加えて、ノーザンファーム自体がバリバリに強いダート馬をつくろうとする組織ではないという点も踏まえれば、一口馬主やPOGにおいては「どの牧場のドレフォン産駒を出資・指名するか?」という点は意識しておくべきだろう。
配合的な話をすれば、父自身の成績もそうだが、母父Ghostzapperの産駒も日本ではひたすらダート向きに出ているので、基本的にはダート向きだと考えるべき。馬体が硬くなりやすい血も多いので、距離も1800mぐらいが上限。
Mr. ProspectorやIn Realityなどの血を重ねると短距離色が強くなりそう、ロベルトあたりの血でバランスをとればダート中距離向きに出る。現段階ではこんな配合イメージだ。
▼桜木の注目ポイント
〇:ダート1200-1800m向き
〇:父自身は仕上がりが早く2歳時からでも走れる
〇:ノーザンファーム産より日高産のほうが期待できる
■イスラボニータ
皐月賞を勝利、ダービーでも2着になるなどフジキセキ産駒唯一のクラシックウィナーとしてスタッドインしたイスラボニータ。晩年はマイル前後で活躍したが、産駒はどのようなタイプになるだろうか?
筆者は「1200-1600mを得意にする産駒が多く出てくるのではないか」と見ている。理由は2つある。
ひとつは先に種牡馬としてデビューを果たした同じフジキセキ系のキンシャサノキセキ産駒が短距離・マイラーを多く輩出している点にある。ダート中距離で活躍する産駒もいるが、基本的には短距離向きの産駒が多い。
そして血統表を見ても、In Reality4x5に加え、フォルティノのところにもWar Relicが入るので、締まりの強い馬体の持ち主を量産しそうだ(似たような種牡馬だとリアルインパクトが該当)。
配合的には、芝の短距離向きの繁殖牝馬と掛け合わせた狙いどころがわかりやすく手堅いとみる。タイキシャトルやサクラバクシンオーあたりの血とは好相性を示すと期待できる。
あとイスラボニータの血統表で、注目しておきたいのは4代目にあるFar Northで、この血はノーザンテーストと3/4同血、Vice Regentとニアリーな関係なので、「イスラボニータ+ノーザンテーストor Vice Regent」の組み合わせが入ると、持久力・スタミナが強化され、マイル~中距離で先行して結果を出すタイプが出てきそうだ。
あと5年以上ぐらい先の話にはなるが、イスラボニータ自身がミスプロ・ナスキロを内包しているので、「イスラボニータ+母父オルフェーヴル」がニックスと呼ばれる可能性がある。頭の片隅に置いておきたい(最近、ノーザンファームはオルフェーヴルのSSクロスに意欲的である)。
▼桜木の注目ポイント
〇:芝1200-1600mを得意する産駒が基本形
〇:タイキシャトルやサクラバクシンオーが入る配合に注目
〇:ノーザンテーストやVice Regent(クロフネ)が入ると先行力で持ち味が出る
■シルバーステート
※本馬は現役時のパフォーマンスを評価されての種牡馬入りだが、そのパフォーマンスが未完であり、本当の適性やポテンシャルなど推測の要素が多く、ひとつの仮説に留める
シルバーステートの血統を見た時に「半姉ヴィルジニア(父Galileo)が日本の芝でそれなりに結果(3勝)を出した」という点に注目した。また同じくガリレオ産駒の長兄Sevilleは豪G1・ATCザメトロポリタン[芝2400m]勝ちがあり、この配合こそが真価を発揮した配合という考え方もできる。
ヴィルジニアの血統表を分析すると、大きな枠で見た時にSadler‘s Wellsとシルヴァースカヤ(シルバーステートの母)が「Northern Dancer+Hail to Reason+Nasrullah」の組み合わせで共通している。
このニアリーな血を重ねることである程度の末脚が引き出され、ガリレオ産駒ながら日本の芝にも対応できたというのが筆者の仮説。
なので、シルヴァースカヤの血を持つシルバーステートもSadler‘s Wells、そして全弟Fairy Kingと好相性を示すかもしれない。
▼桜木の注目ポイント
〇:母方にSadler’s WellsやFairy Kingを持つ配合に注目
■サトノアラジン
ディープインパクト+母父Storm Catの組み合わせではキズナが種牡馬の先輩としてデビュー済み。キズナについては種牡馬デビュー前に「どういう配合がよいか?」という記事を書いた。その中で
あとキズナの母方にあるStrom Catに注目する考え方もある。この血は他の血と喧嘩をすることが少ないのだが、Strom Catのスピード感と相性がよいのがフォルティノ-Caroとか、トニービンなどのグレイソブリン系。欧州っぽい重厚さがStorm Catとはいいバランスになりそうで、母系にフォルティノやトニービンが入るキズナ産駒は配合のバランスが整いそうで注目してみたい。
と書いたが、本記事執筆時点で5頭のキズナ産駒が重賞勝ちを収めているが、そのうち3頭がトニービン・フォルティノの血を持っていた。この傾向はサトノアラジンにも応用できる可能性が高い。
キズナとサトノアラジンを比較した場合、キズナのほうが冬場の中山でも勝てるようなパワー色が強いのに対して、サトノアラジンは母母方にFappianoというスピート血統が入っている分だけトップスピードで勝ると思われる。なので、キズナ産駒よりも鋭い末脚が使え、東京でより活躍できるとみている。
距離適性については、父の適性距離のイメージのままにキズナ産駒が1800m以上、サトノアラジン産駒は~2000mというようなイメージでいいだろう。Storm Catのキツめの気性のおかげで早期から活躍できるので、2歳のマイル重賞を勝つような産駒が出てくることを期待したい。また適性距離がマイル寄りなので、牝馬のほうがアベレージは高くなるかもしれない。
▼桜木の注目ポイント
〇:2歳から活躍できるマイラー種牡馬
〇:母系にフォルティノ・トニービンが入る配合に注目
〇:東京など直線の長いコースで瞬発力が活きる
■編集後記
2021年デビューの産駒は、どちらかというクラシック向きの種牡馬というよりはそれぞれの得意分野で存在感を示す、そんな新種牡馬が多くなりそうだ。
その中で上記では紹介しなかったが、コパノリッキーはしっかり結果を出すと思われる。しかも大抵の場合、ミスプロやロベルトをクロスさせても気にならない濃さだろうし、こちらはあまり配合に囚われずに種付けしてもいいのではないか。「この配合がベスト」と決め打ちするより、広く浅くいろいろな可能性を模索するべく種牡馬だと考える。
あと個人的な思い入れを込めてロゴタイプに期待したい。今なお血統の世界で存在感を示し続けるSingspiel-Glorious Songの血を持つので、母系にHaloを持ってくればスピードを強化できる。
またNureyevも持っているので、Fairy KingなどのSpecialの血をクロスさせれば爆発力も期待できる。実際に交配してみないとわからない点があるが、キングカメハメハ系との交配でNureyevをクロスさせれば父親からは想像できない爆発力が引き出される可能性もあり、血統派としてはワクワクさせられる種牡馬である。
(文=桜木悟史) @satoshi_style
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